公立中高一貫校の出現とその問題点
~加速する中学校選択の流れ~

塾教育研究会(JKK)代表 皆倉宣之

現行の学校教育では小中学校までは義務教育段階なので、敢えて私立学校を望まない限り居住地の自治体が予め定めた学区の学校に入学するのが原則である。ところが、最近この原則が特例により徐々に崩されつつあり、自分たちの責任でどの公立学校へ進むかの選択を迫られる傾向が加速しつつある。それは、各自治体が従来の学区の規制を外して学校選択制を導入しつつあることと、主として都道府県主導による公立中高一貫校の出現に帰因している。加えて、少子化にもかかわらず私立中学入試はますます過熱し、今年の首都圏での中学受験率は18.0%(昨年16.2%)と過去最高を記録している。したがって、これら三者の相互作用による小学六年時における中学校選択は避けて通れなくなりつつある。
従来の選択は私立中学への進学を目指すか、それとも学区の公立中学へ自動的に進むかの二者択一であった。そこでの私立学校を選択する要因は、高い学費を払えるだけの経済的余裕があるかどうかに規定されながらも、公立高校では難関大学受験は不利だとか、地域の中学校が荒れているといった公立学校への不満からであった。
こうした住民の不満に応えるために各自治体は、学校現場に競争意識を持ち込むために学校選択制を導入したり、公立の中高一貫校を設置したりし始めたのである。
これらは、公立の中学校を選択するという意味では同じであるが、前者は受験なしの選択であるのに対し後者は受験を必要とするという点において異なる。
公立の中高一貫校の設置理由については、行政の表向きの説明は中高六か年を通じて公立学校における多様な教育を行なうというものである。しかし、保護者たちの本音と期待はこれとは異なり、公立の進学校化を期待している。その背景には、私立への進学を経済的理由から諦めていた層の存在がある。このことは、今年行われた都立五校の入試結果からも推測される。すなわち、大手の中学受験塾の資料によると、私立と公立とをかけもち受験したものは約二割に過ぎず、模試の結果からもかなり学力の高い生徒が公立を受験していることがわかる。
このことからすれば公立の中高一貫校の出現は、経済格差から生じる学力格差を是正する機能を果たす可能性が期待できそうである。
ただし、数少ない公立中高一貫校の人気が上がってくればくるほど、その過熱がもたらす悪影響も心配される。そのレベルが高くなると私立上位校とのかけもちが進行し、そのことが公私を含めた中学受験熱を一層加速させると同時に、それに取り残された従来のほとんどの公立中学校との間で大きな格差が生じる恐れがあるからである。これまで以上に学力の二極化、いや三極化が進むと同時に、公立のエリート校化への懸念もでてくる。

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