幸福な人たちは 何も知らない。ほんとうの幸福って何なの?
~一人のヒロインが自分の根源的な生き方をを見出す話~
【プロローグ】
今日は、4月12日。正午にJR浜松町駅に着く。予定よりも1時間も早い。わたしにしては、とてもめずらしいことだ。そこで、目的地への途中にある「旧浜離宮庭園」に立ち寄り、30分ほどの散策。ここは、想いでの地でもある。以前は、この近くに東京都の職員研修所があり、色々な研修を受けに来たものだった。都の行政マンとしての研修であったが、そのたんびに昼休みには、この庭園でくつろいだのだった。それらのことどもが多少は頭をよぎりながら、庭園の半分を占めるであろう池を巡った。
そのあと、竹芝桟橋まで足をのばして、いつか行ってみたいと常々思っている、八丈島や小笠原行きの船を見に行く。「かめりあ丸」という船が停泊していた。この船の名前を見て、ふと笑いがこみ上げてきた。小さいころ、字を覚え始めた時に、「カリメア」と声を張り上げてよんでいたら、姉にそれはアメリカと読むんだよ(ヤヤ(・_・;!八)と、注意されたことを想い出したから。こっちとしては、意味など眼中にはなく、ただただアイウエオが読めれば、それだけでいままでとは異なった、なにか一段と大人に近付いたような、そんな気分になれたのがうれしかっただけだったのである。左から読もうが、右から読もうが、どっちだっていいじゃないか、というのが本音だった。縦書きには慣れていたが、横書きではねエ。
さて、そろそろ、目的地へ行かないと、今日の目的が果たせなくなってしまう。目指すは、「四季劇場『秋』」(Theatred’Automne)。都立芝商業高校の隣りにある。ここには、もう一つ『春』(TheatredePritemps)があり、ちょうど「ライオンキング」を上演中だった(道理で、子ども連れが多いと思った)。

 

劇作家「ジャン・アヌイ(JeanAnouith)」について
わたしの目指したのは、『秋』で、そこで3月25日から明日(13日)まで劇団四季が上演中のジャン・アヌイ作「ラ・ソヴァージュ(LaSauvage) ノンという女」であった。
アヌイは、1910年生まれのフランスの劇作家であり、カミュやサルトルらと一緒に、「不条理の演劇」というレッテルをはられたこともある。彼の作品は、劇団四季が得意とするもので、これまでに有名なのは、「ユリディス(正式には「愛の条件 オルフェとユリディス」と、「アンチゴーヌ」である。特に後者は、「今日私は全てを信じたいの。それが私の幼かった時のように、美しくあってくれることを。でなければ死にたいわ」と、純潔か死かの選択を迫られたアンチゴーヌの叫びが、観客の心をとらえて有名となった作品。わたしもかなり以前に(若かりしころ?)観て、数人でおおいに議論したことがある。

 

わたしにとって幻の演劇「ラ・ソヴァージュ 野生の女」

ところが、今日の「ラ・ソヴァージュ」は、わたしにとって、それはそれは幻の作品といった趣のある作品だったのである。いかなる意味においてか。

この作品は、劇団四季が、今回で3回目の上演となる。第一回が1955年で、音楽を武満徹が担当(今回の音楽もそれをそのまま使用。ピアノの調べが優しく寂しく場内を包み込む)、第二回目が1969年。だから、今回は31年ぶりの再演となるわけである。なんと、この31年間の長かったことだろう!

1969年、全共闘運動も、終焉を迎えようとしていた時期である。わたしは、この劇の切符を買っていたものの、闘争は急を告げていた。東大安田講堂の立てこもり(東大入試は、史上初の中止となった)、新宿駅構内での闘争(いわゆ新宿騒擾事件)、同じく東京駅から有楽町駅へかけての線路封鎖事件等々。

わたしは、勤めが5時に終わるのを待ちかねるようにして、毎日、学生たちと行動を共にしていた。学生時代の同僚や先輩たちが、大学院や大学の助手として闘っているのを手をこまねいていることができなかったのと、役人としての自分に引け目を感じていたからである。もし、警察に捕まれば、懲戒免職は必至という状況下にありながらも、その方がかえってすっきりしていいという気持ちも強かった(ただ、ブレーキの一つは、母親を二度と泣かせたくないということがあった。とはいえ、いずれ泣かせることになったのには違いないのだが)。

買った切符で、観劇に行くべきか、それとも、大学の支援に行くべきか。その日になっても、5時の退庁時間まで決めかねていた。都市センターホールへ足が向けば、テレーズ(この劇のヒロイン)に会える。本郷へ向かえば・・・会えない。結果は、後者であった。そのときには、5年もすれば再演があるだろうとの、希望的観測も脳裏にはあったからである。それが、31年も待たされようとは!というわけで、去る二月11日の新聞に、「明日から前売り開始」の広告を見つけたときの驚き。そう、喜びではなく、驚きだった。こちらが忘れかけようとしている時に、突然の再演、いや「再会」だったから。

翌朝、10時を待ちかねるようにして、ウイークデイマチネーの今日の予約に成功して、やっとのことで、今日、「幻の恋人」との再会が成就した次第

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