塾教育研究会(JKK)代表 皆倉 宣之

この答申には、国語(力)をめぐる様々な課題が含まれており、また、それは我々が日々接している全ての乳幼児・児童・生徒・学生に関係するものであることから、その中身を幅広く検証してみる必要があるように思われる。
答申は、第I部「これからの時代に求められる国語力について」、第II部「これからの時代に求められる国語力を身に付けるための方策について」の2部からなり、その第I部、第1章で「国語の果たす役割と国語の重要性」というタイトルで、国語の重要性を説いている。すなわち、
国語の果たす役割と国語の重要性については,母語としての国語という観点から,次のように,「個人にとっての国語」「社会全体にとっての国語」「社会変化への対応と国語」という3点に整理される。

【資料 1-1-1】
1.個人にとっての国語
個人にとっての国語が果たす役割は,以下に示すように,「知的活動の基盤」「感性・情緒等の基盤」「コミュニケーション能力の基盤」として,生涯を通じて,個人の自己形成にかかわる点にあると考えられる。
1)知的活動の基盤を成す
国語によって,これまで人類が蓄積してきた「知識や知恵」を獲得することができる。また,知識なくして「創造性や独自性」を求めることは困難であって,この点で,国語は各人の創造性などの根元的な基盤となっている。
すなわち,国語は,各人の知的活動の基盤として,あらゆる「知識の獲得」と「能力の形成」にかかわるものであると言うことができる。
また,国語は,各人の論理的思考力の基盤である。思考と国語は密接に結び付いており,深く思考するためには豊かな語彙(い)が不可欠である。思考そのものが国語によって支えられているが,日常生活で必要となる論理を身に付けるためにも,国語の運用能力が重要な役割を果たしている。
さらに,状況に即応した局面的な判断は理性や論理等により対応できるが,長期的な展望に立った大局的な判断には,理性や論理だけでなく,広く深い教養が必要である。このような教養を身に付けるためには,日ごろから活字文化に親しんでいることが大切であり,その意味で国語が基盤を担っていると考えられる。
2)感性・情緒等の基盤を成す
我が国の先人たちが築き上げてきた詩歌等の文学を読むことなどによって,美しい日本語の表現やリズム,人々の深い情感,自然への繊細な感受性などに触れ,美的感性や豊かな情緒を培うことができる。また,人間として持つべき,勇気,誠実,礼節,愛,倫理観,正義,信義,郷土愛,祖国愛などは,情緒が形になって現れたものであるが,これらも文学などを通して,すなわち国語を通して身に付けることができる。
3)コミュニケーション能力の基盤を成す
言葉や文字などによって,意思や感情などを伝え合いコミュニケーションを成立させることは,国語の最も基本的な役割である。その意味で,国語は個人が社会の中で生きていく上に欠くことのできない役割を担っている。
コミュニケーションの基本は,相手の人格や考え方を尊重する態度と言葉による伝え合いであり,国語の運用能力がその根幹となっている。また,言葉によって多様な人間関係を構築することのできる「人間関係形成能力」や目的と場に応じて「効果的に発表・提示する能力」は,現在の社会生活の中で強く求められている能力の一つであるが,これらの根幹にあるのもコミュニケーション能力であり,国語の力である。
【資料 1-1-2】
2.社会全体にとっての国語
社会全体にとっての国語は,以下に示すような役割を持ち,文化を継承し,創造・発展させるとともに,社会を維持し,発展させる基盤となると考えられる。
1)国語は文化の基盤であり,中核である
国語は,長い歴史の中で形成されてきた我が国の文化の基盤を成すものであり,また,文化そのものでもある。国語の中の一つ一つの言葉には,それを用いてきた我々の先人たちの悲しみ,痛み,喜びなどの情感や感動が集積されている。我々の先人たちが築き上げてきた伝統的な文化を理解・継承し,新しい文化を創造・発展させるためにも国語は欠くことのできないものである。
また,国語は,学校教育のあらゆる教科や様々な学問の基盤であり,自然科学の分野においても,その重要性は全く変わるものではない。
さらに,地方の伝統文化や地域社会の豊かな人間関係を担う多様な方言については,地域における人々の共通の生活言語であり,同時にそれぞれの地域文化の中核でもあると考えられる。
2)社会生活の基本であるコミュニケーションは国語によって成立する
社会生活は,人間と人間との関係によって成立しているが,その人間関係を成立させるのがコミュニケーションの手段として用いられる国語である。コミュニケーションを成り立たせている「聞く・話す・読む・書く」のすべてが国語を通して行われ,これらの活動を介して社会生活が成立している。すなわち国語なくしては,社会は成立せず,その発展も望めない。
さらに,各人が自分らしい,納得できる幸せな人生を全うできるようにするためには,自分の頭で考える力と,他の人との関係を考慮しつつ,自分の中にある思いを言語化して社会に発言していく力が必要である。
【資料 1-1-3】
3.社会変化への対応と国語
価値観の多様化,都市化,少子高齢化,国際化,情報化など,社会の変化が急速に進む中で,各人がその変化に対応するために,国語は重要な役割を果たすものと考えられる。
1)価値観の多様化,都市化,少子高齢化などの進展と国語
現代の社会においては,価値観の多様化が大きく進展している。多様な考え方や価値観を持った人々との間で伝え合い,相互理解を深めながら人間関係を形成していくためには,これまで以上に高度な国語の運用能力が必要である。
さらに,都市化や少子高齢化などが同時に進展する中で,家庭や地域の教育力の低下や世代間の人間関係の希薄化等が進行しつつある。異なる世代間における円滑な意思疎通は,今後ますます困難になっていくと考えられる。この危険を回避するには,上述の国語の運用能力に加えて,高齢者と若者との間で一定の国語的素養を共有しておくことが大切である。
いじめや不登校,家庭内暴力,少年非行などの子供をめぐる諸問題についても,子供同士,子供と教員,子供と親,子供と大人などの間で言葉を介しての意思疎通や,日常的なコミュニケーションが十分にできなくなっていることが,一つの原因ではないかと指摘する声もある。これらの諸問題への対応の面からも,言葉を用いて伝え合う能力の育成は子供たちの教育における喫緊の課題であると考えられる。
具体的には,相手や場に応じた言葉遣い,あいさつや依頼・感謝の言葉,お互いを認め合い励まし合う言葉など,社会生活と人間関係形成に不可欠な話し言葉の運用能力の育成に取り組むことが重要である。
また,地域での意思疎通の円滑化と地域文化の特色の維持のためには,方言についても十分に尊重されることが望まれる。
2)国際化の進展と国語
国際化が急速に進展する中では,個々人が母語としての国語への愛情と日本文化についての理解を持ち,日本人としての自覚や意識を確立することが必要である。その上で,各国の固有の文化についての理解とそれを尊重する態度が一層大切になる。このような意識や理解を持つために,国語は極めて重要な役割を担っている。
また,異文化との接触が増大し,これまで以上に言語(国語及び外国語)の運用能力が求められる。具体的には,自らの考えを論理的に,かつ説得力を持った言葉で表現することが求められることになるが,外国語の運用能力も総じて国語の運用能力が基本になっているものである。この点においても,国語の果たしている役割は大きい。
3)情報化の進展と国語
情報化の進展によって,多くの人々が膨大な情報に日々接している。これらの情報を適切に活用する能力,具体的には,膨大な情報を速やかに処理・判断する能力,必要な情報と必要でない情報を選択する能力,多くの必要な情報の中から本質をつかみ取る能力,また,限られた時間の中で的確に文章をまとめて自らの情報を発信する能力などがこれまで以上に求められる。
さらに,インターネットなどで,断片的に流れる情報を体系的に「組み立て直す力」も必要である。これらの力を伸ばす上で,国語の運用能力や読書などによって培われた大局観が根幹となることは言うまでもない。

この後、第2章「これからの時代に求められる国語力」、第3章「望ましい国語力の具体的な目安」へと続くが、この第2章において、以下のような「これからの時代に求められる「国語力」の構造(モデル図)」が示されている。こういう理解の仕方に問題はないかの議論が当然にでてくるものと思われるが、ここでは触れないでおく。

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