‘02 塾長日記&エッセイ’ 一覧

学校と塾の関係を問う
2005-07-15

塾教育研究会(JKK)代表 皆倉宣之

先日、東大大学院教育学研究科・教育創発機構(機構長・苅谷剛彦教授)が主催する「学校と塾の関係を問う」という公開研究会が本郷の東大で行われた。発表者は、塾経営者、元公立中学校長、韓国人の上智学院(日本の塾にあたる)経営者、アメリカ人によるアメリカの塾事情、大学教授の五人で、ほかに指定討論者として二名の大学教授と多彩であった。
実は本研究会は二回目であり、苅谷教授をはじめとする教育社会学者たちが、現実としては存在しながらなかなか分析対象としては取り上げられてこなかった学校と塾の関係に、真正面から取り組んでみようという意気込みが感じられる催しであった。
今回の研究会開催の趣意書によれば、学校と塾の関係を現象面としては「日本は、世界においても、学校教育の外での塾通いが多く、“二重に”勉強している子どもが多い国の一つとして知られている。
こうした学校外での組織的な学習指導は、英語でシャドーエデュケーション(影の教育)などと呼ばれてきたが、場合によっては学校でリラックスして塾で勉強する「影」が表になるような現象が見られたり、同時に、「影」と表との新しい関係が模索されたり、両者もまたそれぞれに変化したりなどの動きが見られる」と捉え、それゆえに、「塾、学校など、それぞれの異なる立場から具体的に子どもの学習状況に関して何が言えるのか、相互にどのような関係が築かれているのか、今後どうすべきかが課題となり、それを議論していく」ことの必要性が求められることになる。
塾に携わっている私として、この問題認識は極めて重要であると考えているが、もっと緊急を要する課題があると考える。それは、学力低下論争を機に自治体や親たちの塾への期待が高まる傾向も見受けられるが、他方では経済的に塾へ通えない子どもたちが増えており、その結果ますます学力の二極化が進行しつつあることである。塾の存在が、経済の格差を学力の格差へと転化する役割をはたしているとしたら、これは単なる自由競争(または自己責任)の原理で済まされる問題ではないだろう。塾を禁止できないとすれば、あとはバウチャー制の導入などで何とかするしかないのかも知れない。

仮性学力ではなく「まなびかた学習力」を身につけよう!
2005-04-04

~PISA(学習到達度調査)の結果から学ぶべきこと~
塾教育研究会(JKK)代表 皆倉宣之
2005年の首都圏(東京、神奈川、埼玉、千葉の1都3県)の中学受験者数は、少子化が進む中で3年連続して上昇し、約45000人強となり、ほぼ16%台に達し、全小学生の6人に1人が受験したことになる。
そこで、この機会に中学受験に取り組むに当たっての留意点と、来年以降の中学入試で予想される変化などについて述べ、これから受験をお考えの保護者やそのお子さんたちへの応援ならびに助言としたい。

中学受験熱の高まりの原因

先ず、なぜ中学受験がこのように脚光を浴び続けているのだろうか。そのことを解明することによって、望ましい中学受験の在り方について助言が可能となると思われる。
第1は、現行の週5日制や総合学習などいわゆる「ゆとり教育」批判である。このまま公立に依存していたのでは学力低下は避けられないとの危機感がそこにはある。
第2は、昨年の暮れに発表されたOECDのPISA(学習到達度調査)の調査結果において、日本の(学力)順位が下がったという報道である。
第3は、大学入試における合格実績は中高一貫の私立高が高い(→学力が高い)という認識による。
第4は、私立の中には、教育内容のよい学校も多いという判断である。

ほんとうの学力とは

次に、以上私学ブームの背景となる要因をざっと列挙してみたが、これらの中には吟味を要するものもある。その一番手が「学力」とは何かという問題である。もっと正確に言い直せば「真性」学力(「ほんとうの」学力)とは何かということである。これは中学受験ブームの要因の第1~3と関係する。
学力論争でよく取上げられるのが基礎基本ということである。『分数(あるいは小数)もできない大学生』というショッキングなタイトルで始まった学力論争も、突き詰めれば「読み書き算数」ができないといった類のものであった。
しかしながら、PISAの調査結果を念頭において学力を論ずるのであれば、マスコミが騒いでいるようなうわっついた学力観では誤った結果を招きかねない。なぜなら、PISAの調査結果で日本の子どもたちの「読解力」の得点が平均点より低い14位に下がったというのは、日本における読解力のテスト問題とは全く異なる種類の問題を解かされた結果だからである。
すなわち、PISAでは「読解力」を、「自らの目標を達成し、自らの知識と可能性を発達させ、効果的に社会に参加するために、書かれたテキストを理解し、利用し、熟考する能力である」と定義している。ここでは、知識を知識として貯蔵することが学力だと捉えがちな日本のある一部の学者や教育関係者や塾関係者ならびに多くの政治家、マスコミなどの学力観を退けて、勉強の目的は効果的に社会に参加するためであるとし、そのためには子どもたち自らが目標を持ち、それを達成する過程で得た知識ならびに自己の可能性をさらに発達させ、書かれたテキストを理解し、利用し、熟考する能力を獲得すべきであるとする。これが、まさにグローバル化した21世紀を生き抜いていくための学力観、すなわち、「真性」学力(「ほんとうの」学力)に他ならない。

「真性」学力(「ほんとうの」学力)を身につけるには

工業化社会から情報化社会への変化は、「もの」から「情報」への変化である。そこでは、膨大な情報を取捨選択する能力と、それらを管理する能力と、それらを応用して新しいものを創造する能力が要求される。つまり、知識の貯蔵はコンピュータに任せ、各自の目標を達成するために、それをどのように組み合わせ、どのように創造してゆくかという能力が問われるのである。
このことから、各自が一定の目標を持ち、その目標達成のためにはどのような行動(学習)をとればいいのかという、行動のとり方、いいかえれば学習の仕方(学び方)を学ぶ力を身につけることが、最も大切だということがわかってくる。この力があれば、新しい課題に直面しても自分なりの解決方法で対処できるからである。海図無き21世紀の時代に当然に要求される学力である。

学力低下のほんとうの原因は何か

日常冷静に現在の子どもたちの実態を見つめていると、既述したような学力が低下していることは否定できない。しかし、その原因が指導要領の改訂にあるとは即断できない(ちなみに、PISAの調査で一位を占めたフィンランドはまさに日本と同じような総合的学習を採用している。なんと皮肉なことか)。なぜなら、子どもたちに自発的に勉強しようとする意欲が感じられないからである。つまり、能動的に勉強や課題に取り組むのではなく、学校や塾で「教わる」という受動的態度に堕しているからである。目的意識と学習意欲の喪失である。まさに東大の佐藤学教授の言葉通り「学びからの逃走」現象であでる。
この状態で周囲に勧められるままに中学受験に臨むならば、やがて自己決定を迫られた時に困ったことになる。有名大学の多くの教授たちが嘆く一例を挙げると、大学院へ進む学生が増えているが、その実態を短絡的に表現すれば、大学院で何を学ぶかの目標があるのではなく、ただ大学院進学の試験があるからという動機が多いとのこと。試験があれば一生受験するというこの悲劇的な現象の背後には、小学生時代からの受動的な受験勉強を続けてきたということとの関連性が指摘されている。

公立学校の復権なるか

さて、最後に、批判の多い公立学校であるが、それらの批判を受けて建て直しを図りつつある。

1)その一つである公立の中高一貫校については、今年度で107校が全国で開校予定である。もともと進学校を目指すことを否定しているので、それほど話題にならなかったが、都立や千代田区立の中高一貫学校がそれぞれ都民を惹きつける特色を持った内容の学校にしようとしているので、私立中心であった中学受験戦線に大きな変化を及ぼす可能性もある。
ついでに触れておくと、千葉県の公立トップ高校である県立千葉高校に2008年度から併設型の中学校が誕生する。公立の進学トップ校の中高一貫校の創設は全国的にも珍しい。その動向が注目される。

2)都立高校の復権は可能だろうか。今年の大学進学実績を見る限り肯定的な現象が出てきている。すなわち、東大合格者数が西18人、日比谷14人と二桁台になったことである。進学重点校の指定を受けた年に入学した1期生の実績であり、さらに来年受験する生徒は学区制撤廃後の都内全域から入学した生徒達である。もしこれらの好条件下での実績がさらに伸びれば(先ずは東大2桁台達成)、ここでも私立中心であった中学受験戦線に大きな変化が生じることは必至である。

<辛口コラム> 歴史ってなんだろう?
2004-10-03

~現在生起している出来事をどう教えるか~

時事問題のレベル

中学校の定期試験では多くの学校が時事問題を出題する傾向がある。社会科が主流だが理科や保体でも出題する学校がある。

ただし、出題の内容をみると、がっかりさせられる場合が多い。その原因は、教師の力量と生徒の知識のなさに由来していると推察されるが、これでは本当の学力などつけられるはずがない。なぜなら、教師の勉強不足は自ずと授業内容の劣化を招くし、生徒のレベルに合わせた問題を中心に試験するのは、ますます生徒のレベルを下げることになるからである。

では、われわれは時事的問題をどのように取り扱ったらよいのだろうか。

今から100年前の出来事

例えば、時間を一世紀遡ってみよう。1904年である。もしこの年に自分が中学生であったと仮定すると、日本の近代史において最も重要な出来事に居合わせたことになる。そう、「日露戦争」である。この年の2月に始まり翌年の9月のポーツマス条約で終結したこの戦争は、その背後にヨーロッパ列強(帝国主義)の思惑が大きく絡んでいた。

わかりやすくするためにその概略を記そう。

先ず、ロシアには、アジアでの権益をめぐってイギリスと対立するフランスが資金援助を行っていた。
また、ロシアは満州をめぐってアメリカとも対立していた。
他方、日本には、ロシアの南下政策を食い止めアジアでの権益を確保しようとするイギリスが、アメリカとともに、戦費19億8千万円のうち12億円を外債の形で資金提供していた(このことは、日露戦争が「借金戦争」だったことを示している)。
このようにみてくると、この戦争が単に日露両国だけの事情で勃発したのではなく、ヨーロッパ帝国主義の思惑と深く関連していることがわかる。しかも、表面上は日本が勝ったようにもみえるため、当時の日本国民はポーツマス条約の内容に不満を持つ国粋主義者たちの扇動に乗ってしまい、日比谷焼き討ち事件まで引き起こしたが、内実はこれ以上の戦費調達が不可能であり、レフェリーストップを期待していたのが日本の実状であった。

同様に、ロシアはロシアで国民大衆の専制政治と戦争に対する反抗が高まり、革命の波が高まっていた。さらに、フランスはこれ以上の援助を望まなくなっていた。

100年単位で歴史を振り返る

以上、日露戦争をめぐる重要な要素だけを抜き出してみたが、ここで問題は、当時のこの戦争に接した日本国民が、どの程度こういう日本の実態を知っていたかということと、この戦争の結果、日本が今後どういう方向へ進むことになるかという予想をしていたのだろうかということである。

前者については、情報媒体がいまとは比べ物にならないほど限られていたことと、政府が徹底して情報を公開していなかったことから、ほとんど政府の発表だけを信じさせられていたといってよい。こういう状況下では、後者の問いに対して予想などできるはずが無かった。

その結果、司馬遼太郎をして嘆かせる羽目に陥ってしまうのである。

すなわち、日露戦争後の日本は、新しい勢力圏となった南満州・韓国の経営に乗り出し、1906年には南満州鉄道会社を設立し植民地経営の中核としてゆく。そして、ついに1910年には日韓併合へいたる。このようにして、日本は中国・朝鮮民衆に対する植民地支配の主役に成長していった。その結果、国家主義の精神を強め、しかも、民主主義とは無縁な国家主義が支配的となり、さらには、外国に対する軍事的進出を国家の根本目標とする軍国主義的傾向が成立していったのである。

その後は、第一次世界大戦(1914年)やロシア革命(1917年)などの日本に有利な客観的状況も追い風となって、本格的な中国やアジアへの侵略が始まるのである。

100年単位である出来事(事件といってもよい)を振り返ると、これはもう明白な歴史的事実であると認識できる。100年といわずとも59年前の1945年であっても大きな歴史的事実となる。

歴史は現在的である

このようにみてくると、10年ちょっと前のバブルの崩壊期から顕著になってきた経済の自由化・規制緩和の導入は、これまでの日本を根底からひっくり返すほどの歴史的出来事だったことがいずれ分かるに違いない。

同様なことを世界史的に見れば、アメリカが現在行っているイラク侵略戦争とそれに加担している日本の評価も、いずれ歴史的に判定されることだろう。

その際絶対に抜かしてはならないことは、戦争の理由付けと目的である。「大量破壊兵器があるからイラクを攻撃する」といいながら、それが存在しないことが明白になってもその理由付けをすり換えて戦争を続行し、自国の価値観を他国に押し付けようとする事実である。これらの事実は、今日もニュースとなり、マスコミという媒体を通じてわれわれに届いている。

歴史という科目を教え、学ぶ態度とは

塾でも学校でも歴史という科目を取上げるときに大切なことは、歴史の年表を教え込むことではなく、歴史とは何か、それをどのように考えるか、その視点は何か、ということである。それを生徒がわかるためには、今起きている出来事を題材にして、色々な角度から物事を見る態度を考えさせるのも一つの方法である。そのためには、塾長や教師の豊かな教養が要求されるのだが。

歴史は、過去の出来事を暗記するためのものではなく、現在のわれわれが過去の出来事から何を学ぶか、言い換えると、現在の直面する課題を解決するために過去から教訓を引き出すための極めて現在的なものなのである。

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