先に少し触れたように、本法案は文字・活字文化の振興の推進を目的とするものであり、表面的には多少の文言に違和感のあるところを除けば、それほど異論はないかもしれない。
しかしながら、ここで簡単に述べておくと以下のような問題点が指摘される。
先ず、読書というまさに個人に属する領域に国家や公共団体がどの程度の関与が許されるかである。この点は、「子どもの読書活動の推進に関する法律」ができた際にも問題とされた。
次に、文字・活字を利用する側と文字・活字を供給する側とのバランスをどうとれるかである。出版業界というまとまりのある団体の力は、読む側の個人のそれよりもはるかに強い。それゆえに、本案では削除されたけれども、骨子案にあった「版面権」(出版者の固有の権利)の創設などという出版業界にとっての利益を優先する思考が増殖しないことを要望しておきたい。
第3に、学術的出版物の普及の支援が規定されているが、「学術的」であるかないかの基準を誰がどのようにして決定するのか、読者か出版社か行政か、は大問題である。検閲となりかねない側面もあることを注意しておかなければならない。
最後に、この法律と他の関連法律との関係、すなわち一般法と特別法、前法と後法、あるいは上位法と下位法といった関係はどうなるのかということである。図書館法や学校教育法、学校図書館法、それに指導要領などとの関係である。
特に、図書館に関する基本法である図書館法と本法案との関係は重大で、後法は前法に優先するという立法の原則からすれば、図書館法が骨抜きにされる可能性すらあり得る。たとえば、図書館法が掲げるいろいろな自由と、先に述べた「学術的」かどうかの判断の際にどちらを優先させるのかとか、「文字・活字文化振興法の施行に伴う施策の展開」が掲げる「地域における文字・活字文化の振興」にあげられている項目などは、本来図書館の任務と思われるものが多いが、それを本法案は奪ってしまうのではないかという疑問を感じる

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